設立10周年記念対談企画

大石 芳裕氏
おおいし・よしひろ

明治大学経営学部および大学院経営学研究科教授 グローバル・マーケティング論担当

著者は2001年に入学した明治大学大学院経営学研究科のマネジメントコース(MBAコース)で、指導教授である大石教授と出会う。当時、医薬品の専門広告代理店で広告とマーケティングの実務に従事し、米国の製薬業界で取り組まれていたDTCを体系的に理解し、把握するための研究に取り組んでいた著者に大石教授は研究者の学際的な視点から研究への指導を行ったという。

“B to B to C”の時代に

大石 実は今、B to B マーケティングについて様々な企業にヒアリングをしていますが、現在のマーケティングが極めて矮小化して捉えられている傾向が強い。営業部とマーケティング部、財務部や人事部といった組織ごとにマーケティングが切り分けられて、マーケティングは一つの機能、狭い意味の広告宣伝だ、みたいなことを言われるのですね。“コミュニケーション”というと、テレビや新聞で宣伝することくらいにしか考えてないわけです。
それは重要なことの一つなのですが、例えば社長の経営に対する姿勢のあり方、営業マンの話し方や服装、これらは全てコミュニケーションなのですよね。それをトータルで管理をしていかないと、本当の意味での競争優位に立てないわけです。製薬業界に限らず日本の企業というのは、そのような点では全く遅れていると感じます。

古川 企業の方になかなか理解してもらえないときには、私は次のような説明をするときもあります。
例えばインスタント・カレーの新しい製品が出たとします。そうすると、メーカーはテレビCMなどで新製品が出たということを広告で宣伝して、一方では営業マンがスーパーマーケットを回って、「当社の新製品が出ますから、消費者の目につく売り場に置いてください」と働きかけます。すると店長からは「本当にお客さんは買ってくれるの?」と聞かれますから、「これだけ多くのテレビ広告を投下しますからきっと売れます」と言って説得して消費者の目に止まりやすい売り場に製品を置いてもらうわけです。
そんな話をして「製薬企業の医療用医薬品も同じです」と言えば製薬企業の方は「なるほど」と納得するのですよ。だからMRの活動を効果的に連動させて、DTCを展開しているのでこういう患者さんが来ますから、「当社はこれだけこの疾患に貢献しています。当社はこういう製品を持っています」と医師を訪問して治療への貢献や製品の説明をする必要がありますよと話すと、理解してもらえるのですよ。

大石 やはり時代は変わりましたね。2000年代の初頭に古川さんがDTCを研究し始めた頃は、まだそういう意識もなかったし、文献もなくて研究もなされてなかったのですが、その後、医薬分業とかジェネリック医薬品が登場したり、様々な環境変化があったりして、製薬企業でもDTCに力を入れなくてはいけないという流れになったのでしょうね。

古川 2005年か2006年くらいまでDTCというのはイコールDTC広告だという意識が強かったと思います。それをマーケティングと名付けて、いろいろ言っているけれども、要するに単なる広告の一つの手法ではないかと言われることもありました。

大石 最近雑誌の連載を頼まれて私が執筆している記事で、B to B マーケティングについてまとめたのですが、もう今はB to Bをやるにしても“B to B to C”を考えなくてはいけない。つまり最終顧客を考えなくてはいけないと主張しています。
例えば、機械メーカーが顧客に機械を納入したら終わりというのではなくて、最終消費者にとってメリットがあるようなものを作るための機械だから、機械を作って何ができるのか、というところまで考えなくてはいけない。IMCがその点でも、“B to B to C”になり、その意味で統合されたものになってきており、これが現在のDTCマーケティングの潮流です。


もう一つ、現代的な問題として消費者主権問題というものを考える必要があります。昔から消費者が本当は決定権を持つはずなのですね。だけど人間というのは不思議なもので、外から与えられた情報の中でしか選択できないわけですよ。だからある製品、医薬品を購入しようと思っても、何を買うかは大体五つまでしか思いつかない。当然消費者もゼロからそれを考え出しているわけではなくて、友人との会話やテレビ、専門雑誌等から情報を入手している。限定された消費者主権ではあるけども、やはり今、医薬品業界のなかでも消費者である患者さんが自ら処方される医薬品を決める傾向にあり、そういう方向に必ず行くと思います。これが時代の流れだと思うのです。
これまで製薬業界というのは研究開発に膨大な資金を投資して、10億ドルを超すブロックバスターをいかに生み出すかという競争を繰り広げてきたわけです。しかし、いまその非効率さに製薬企業自体が辟易しているわけですよね。膨大な資金を投じて、それで大型品になる医薬品が1000のうち3つもないわけだから。だから規模の経済を追求するために統合を繰り返し、巨大企業になっていったのが現状です。

古川 メガファーマの誕生ですね。

大石 ただこれも限界がある。だったらもう少しマーケティングのところで差別化を図っていこうという方向、流れになってきていると思います。


変化を遂げる企業の疾患啓発活動

古川 ここ数年のDTCの活動で大きく変わったことのひとつは、どのような疾患でも製薬企業は自社で開設する疾患啓発のポータルサイトを作成し、医師等に監修をしてもらったうえで学術的にも全く問題ない正確なものを作るようになっています。以前は、高齢者はインターネットネットを使わないし、ウェブサイトによる情報提供なんて意味がないから必要ないという発想でした。しかしいまは、高齢者がターゲットの疾患であってもその家族などはウェブサイトを見る訳ですから必ず作るようになっていますね。
 
大石 本当に製薬企業のウェブサイトの出来栄えもよくなりましたよね。私は処方された薬のしおりは全部、PDF化して記録しています。それでグーグル等のインターネットでも調べます。すると薬の分かりやすい情報が沢山得られます。つい最近も花粉症がまだ治らないのでかかりつけの病院に行ったら、医師が「どんな薬にしようか?」と言うので、きちんと薬について調べたうえで「私はこれを処方してください」とお願いしたわけです。日本でも患者さんがそうお願いしたら医師が処方してくれるという風に段々なってきていますよね。医薬品が通常の食品や飲料品と決定的に違うのは、単に認知度が高いから選ぶということではなくて、選ぼうとしている医薬品が自分の病気に対してどのように効くのか他の治療法と比べてどうかといった事例や情報が得られることや、他の人たちがどのような評価をしているかということが大事になってくると思います。もちろん医薬品の持っている特殊性もあると思います。薬によっては命に関わるものもありますから。だからこそ、そこでIMCが必要になってくる。例えば自社で膨大なテレビ広告を展開できないとするならば、他の手段でどういう形で自社製品の認知度を上げて、自社の医薬品を選んでもらうかという工夫が必要になる。単に認知度を上げる方法もあれば、臨床試験を組んで色々な大学の先生に研究をしてもらいお墨付きをいただいて、効能・効果や安全性の高さで勝負をする、という形になってくると思うのですよね。

古川 最近の変化としてDTCの何が変わってきたかというと、ターゲッティングの手法です。もともと医薬品は疾患ごとに服用をする患者さんがターゲッティングされている訳ですが、なおかつその医薬品を服用して欲しい患者さんの重症度や軽症度等も分かっているわけですから、これほどターゲッティングできる商材はない。最近では、インターネット等のソリューションがどんどん開発されてきたことによって、ターゲッティングしたい人たちに対してだけ、集中的に情報発信するという方向に変わってきています。一方で幅広い人をターゲットにしたDTCのテレビCMの作品数は2012年をピークに減ってきていますね。
大石 その背景には、インターネットがピンポイントでターゲティングできるという特性がありますよね。
古川 逆に、だからこそ中堅の製薬企業やDTCを手掛けたことのない企業も、うちでもこれはやるべきだという風に変わってきているのですね。


 
■ここでご紹介した対談内容は、全体からの抜粋版になります。対談の完全版は2018年1月31日に文眞堂から発行された書籍『日本におけるDTCマーケティングの歩みと未来』(著者:古川隆)に全編収載されるています。書籍の方もぜひご覧頂けると幸いです■
 

【略歴】
大石 芳裕(おおいし・よしひろ)
明治大学経営学部および大学院経営学研究科教授 グローバル・マーケティング論担当
九州大学大学院経済学研究科博士後期課程修了後、佐賀大学経済学部助教授、コロラド大学経営学部・大学院客員研究員を経て、1996年に明治大学経営学部助教授、その翌年に教授に就任。
日本流通学会(理事、前会長)、多国籍企業学会(理事、前副会長)、国際ビジネス研究学会(常任理事)、異文化経営学会(理事)などで要職を務める。主宰するグローバル・マーケティング研究会は、大手企業の海外戦略を担うキーパーソンが登壇するセミナーが人気を博している。