設立10周年記念対談企画

香取 久之 氏
かとり・ひさゆき

特定非営利活動法人 希少難病ネットつながる(RDneT/アールディネット)理事長

香取氏は製薬会社に勤めていた時代に、マーケティングの社内勉強会に同僚から誘われて参加した際に講師として招かれていた著者と知り合う。その後、コールセンターの立ち上げ責任者を務めるなど、製薬企業のなかで重要な役割を果たしてきた。そこで経験したことと、難病患者としてのご自分の経験をもとに医師・研究者や医療機関、行政、製薬企業等と患者さんや家族(当事者)をつないでいくことがもっとも大切なことだと気づかされたと話す。

製薬企業で経験した仕事をきっかけに、
患者さんや家族のためにコミュニティサイトを構築

古川 製薬企業は多くは「患者さんのために」とスローガンは掲げても、現実的には直接的な働きかけがかなり制限されるので、難しい面もあります。

香取 医師法や薬剤師法などがあり、直接患者さんにアドバイスをしたりはできません。コールセンターの仕事にかかわったときも、話し方にすごく気をつけなければならなかった。
だからMRとして働いていたときも、充実感はあるのですけど、歯がゆい思いがありました。そのため、自分たちの知識とかスキルとかを直接患者さんに生かせるものはないかな、とずっと考えていたのです。
 
古川 製薬企業は患者さんとのコミュニケーションの手段のひとつとして、 DTCのプログラムを提供していますが、さまざまな業界自主規範による制約もありますよね。
製薬企業が患者さんとコミュニケーションを行う際には透明性が保たれていることが原則です。なおかつ営業とかマーケティングなどの部門が直接患者さんにアプローチしていくと、自社製品に誘導しているのではないかという懸念がもたれたりします。その懸念を払拭し、透明性を担保するために、外資系製薬企業などでは社内に営業に関係しない専門の部門を作って、患者さんとコミュニケーションを図っています。
ですので、特定の自社の医薬品に結びつけるための活動ではないです。でも患者さんのための活動ですよとは言いながらも、結局、社会はそういう目で見てくれないことがあるのでジレンマも抱えている。製薬企業はどこも、そこの線引きで苦労していると思います。
 
香取 その辺については、昔から外資系のメーカーさんなどはコールセンターを社長直轄の部門として位置づけ、マーケティング部門とすぐに横の連携が取れる組織作りが行われていますよね。

古川 消費財のメーカーだったら当たり前にやっていること。消費者の声は宝の山として、コールセンターの持つ情報が非常に重要視されていますし、企業の役員がこの情報を定期的にレビューすることも多いですよね。
製薬企業もそうなりつつあるのでしょうが、まだまだ道半ばという現実もあるのではないでしょうか。
DTCの話をしますと、初期の頃には、患者さんへの情報提供活動の受け皿として、DTCを実施してもコールセンターを設置しないケースが結構あったのです。結果として、テレビCMや新聞広告を展開すると、当然患者さんの反響が大きく起こるわけですが、どこに連絡していいか分からないということになってしまう。
その後、多くのDTCでコールセンターを設置するようになってきたのですが、製薬企業の場合は、患者さんから病気の相談があっても、回答が少しでも規定から外れてしまうと診療行為にあたってしまうので、それは極力避けなければならない。
日本にもメディカルコールセンターがあり、医師も看護師も保健師もいるし、健康相談にのったり、ある程度医学的なことについては答えられます。最近ではDTCを実施するときに、メディカルコールセンターを一緒に開設して、患者さんからの声に耳を傾け寄り添っていくという体制になりつつあります。

難病全体に関する情報提供体制が急務
「患者さんと専門家をつなぐのが私の役目」

古川 最近、 DTCを展開するときに、必ず製薬企業はまずその疾患の患者さんのインサイト調査を実施してペイシェントジャーニーを考察します。
長く患って一生付き合う必要のある病気の場合、適切に治療されてなくて、病院のたらい回しに遭っている患者さんが多いですよね。製薬企業はそういう患者さんに直接アプローチをして色々な情報を伝えていきたいと考えるのですが、なかなかそれができない状況で皆さん悩んでいます。

香取 難病患者さんは、療養上の不安や日常生活での困りごとなどの悩みをまずどこに相談したらよいか分からないのが現状です。難病相談支援センターが都道府県に 1つずつあり、東京でしたら東京難病団体連絡協議会が患者さんの相談にのっていますが、地域や人によって、対応の仕方や提供する情報の質にもバラツキがあります。

古川 難病について情報を一元化して患者さんの相談にのる必要がありますね。

香取 でも、実際は医者や研究者がどこにいるか分からないから、つながることができないのです。そこで私は患者さんと専門家をつなぐのが役目かなと思っているのですよ。そのためには患者さんにそういう居場所を作ることが大事。そこで現在、患者さんの想いや声を広く社会に伝えることを目的に、大阪大学人間科学研究科の山中浩司教授らと共同で社会学的研究事業を行っていまして、今年度で 4年目になります。
本研究は希少疾患や病名不明の患者さんおよび家族の方々が、社会的制度の狭間や社会的認知の不在によってどのような生活の困難、医療や社会についての想い、病気やご自身の生活についての不安や想いをもたれているかを直接お会いして聞き取り、そうした情報や気持ちを社会に発信し、また互いに共有し合うことを目的としています。なお山中教授の研究室では、希少疾患のみならず、例えば大阪府のあいりん地区における日雇い労働者の問題も含め、様々な社会課題を研究しています。

古川 希少疾患の新薬開発を行っている製薬企業はみな、患者さんがどこにいるのかわからないので、臨床試験等でも困っていますよね。でも、これだけインターネットが発達しているわけですから、その仕組みをうまく作れば香取さんおっしゃったように一気に解決しそうですけどね。

香取 そこなのですよね。行政に頼りすぎると縦割りなので取り組みが広がらず、事が進まない現実がある。でも、私は諦めずに自腹でやってきたところ、様々なところから声が掛かるようになりました。まだ詳しいことはお話できないのですが、難病患者さんの地域支援体制に関する研究班にもかかわっていく予定です。今後はかつて自分が働いていた製薬業界にも恩返ししたいですね。
ある製薬企業の広報部に知り合いがいまして、たまに話をすると、本当の CSRCSVはこうあるべきとよく理解していながらも、実は何も実施できないと言うのです。私みたいに幅広く、横断的に活動していると、支援しようにも会社からの決済が下りない。「当社の医薬品と全然関係ない」ということで認めてもらえない。
そこで私はその方に、本当に患者さんや家族のために活動している団体に適切な支援がいくよう、製薬企業で基金や財団を作ることなどを提案しました。

古川 薬害救済ではそのような仕組みできていますからね。ぜひ実現してほしいですよね。

香取 製薬企業は高い利益を出していますから、本当に社会に還元するというのであれば、やはり不公平感が出ないように、ある企業が特定の団体を支援するのではなく、各社で資金を出し合って、公正に審査して、支援先を決めればいいと思います。

古川 そうですね。基金みたいなものをつくって、そこに売り上げ規模等に応じて資金を投じて、そこできちんと審査をしていくようなことができるといいですね。

 
■ここでご紹介した対談内容は、全体からの抜粋版になります。対談の完全版は2018年1月31日に文眞堂から発行された書籍『日本におけるDTCマーケティングの歩みと未来』(著者:古川隆)に全編収載されるています。書籍の方もぜひご覧頂けると幸いです■

【略歴】
香取久之(かとり・ひさゆき)
特定非営利活動法人 希少難病ネットつながる(RDneT/アールディネット)理事長
1987年に発症して以降、アイザックス症候群や線維筋痛症(FM)、複合性局所疼痛症候群(CRPS)など複数の疾患を併発。1994年に大塚製薬株式会社に入社し、MR(医薬情報担当者)やコールセンター立ち上げ・運営・スタッフ教育業務等に従事。アイザックス症候群の患者会を設立し、活動を行うなかで7,000疾患におよぶ国の支援対象とならない希少難病の存在を知り、約20年間勤務した大塚製薬を退職して活動を開始。20151月に希少難病ネットつながる(RDneT/アールディネット)を設立。「繋がり・寄り添い・支え合い・共生する」をキーワードに真にノーマルな社会を創ることを目標に日々活動を進めている。