設立10周年記念対談企画

加藤 和彦 氏
かとう・かずひこ

あすか製薬株式会社 取締役常務執行役員(開発本部長、創薬研究担当)

外資系の製薬企業や食品メーカーを経て、エビデンスに基づいたマーケティング支援サービスを提供するベンチャー企業を立ち上げた経験をもつ加藤氏。20年以上も前から、患者さんへの情報提供やコミュニケーションのあり方を模索してきた同氏の目に、インターネットやIT技術が進歩した現在はどのように映るのか、今後の方向性や可能性について話していただいた。

これからのDTCのあり方とは…
「患者さんの気持ちに寄り添い、課題に対し解決策を示す」

加藤  DTCの創成期は、患者さんの気持ちに立ってというよりは、顔の見えないターゲット、要するに患者さんを一つのかたまりとしてしか見ていなかった気がします。
でもいまは患者さんの気持ちになって、本当に自分がその疾患になったときに、どのような悩みを持っているのか、どうして欲しいのか、もしくは徹底的に疾患の恐怖や痛みを自分で再現してDTCを実施するという手法がだいぶ浸透してきたと思います。

古川 まだまだ十分とはいえませんが。
少し前まではDTCには一定の型があって、テレビCM、新聞広告、市民公開講座、啓発サイトという疾患には関係しないでコース料理のような決まりみたいなものがありました。「当社はどんな要素を入れようか、テレビでは何をやろうか、新聞広告では何やろうか」と考えますが、それは製薬企業の視点でしかない。製薬企業が都合よく考えたもので、本当のDTCというのは患者さんの気持ちを踏まえて、どこに課題があるのかを考え、その課題に対し適切な解決策を示してあげる。そういう積み上げでコミュニケーションの内容を考えて実施するのがこれからのDTCです。
話は変わりますが、イービーエムズ当時会社をあげて支援していただいたDTCの研究会ですが、現在は「疾患啓発(DTC)研究会」と名前を変えて続いています。当時会社として支援していただき続けさせてもらったことに、本当に感謝しています。
研究会に熱心に参加された方々が会社に戻って、DTCを実施するべきだということを主張されて、うわべだけの知識ではなく、研究会で議論して他社の取り組みの事例なども皆さん聞いているので説得力があるのですよね。あの当時は、参加者は結構情報をオープンにして皆さん自社の事例など話してくれましたね。

加藤 タイミングがよかったのでしょうね。他の製薬企業に DTCを理解していただき、良質な情報、患者さんにとっても勉強になる情報を提供したいという思い入れがありました。そうした熱意で講師の方にも一生懸命話をしていただきました。それは DTCの創成期だったからこそできたのかもしれません。

古川 当時の活動がいまの疾患啓発( DTC)研究会につながっています。
私の著書の初版で、加藤さんが素晴らしいことを話されていました。EBMを臨床領域のみならず医療業界に対するトータルソリューションの観点で検証し、そのうちDTCで用いるデータでもEBMの普及促進、ひいては医療業界の改善につながる可能性があると、もうこのときに言い切っておられる。

加藤 そうでした。「ヨーロッパ型 DTC」とこの頃言っていたのですね。

古川 確定診断後の患者さんとのコミュニケーションというのは、やっと日本でも「コンプライアンスプログラム」ではなくて「アドヒアランスプログラム」という名称になって、各社が取り組んでいますし、実現してきています。メディカルコールセンターの活用もそうですね。

加藤 当時は全くありませんでしたよね。

古川 それから、患者さんをターゲッティングして疾患啓発サイトに来てもらって、それをまた分析してサイトで提供する情報を改善するといったことも書かれています。

加藤 その通りになりましたね。

古川 実現していないのは医療従事者向け DTCトレーニングセミナーでしょうか。これはオーストラリアで実施されていたので著書でも紹介しましたが、日本でもこのような取り組みが進むといいのかなと思います。医療機関が患者さんを受け入れる際に、どのような患者さんが来るかというのを事前によく分かってから受け入れていく体制になるといいですね。

加藤 医療機関も事前に疾患啓発のタイミングと内容を把握していれば、それに対応できると言う事ですね。増患という観点からもメリットがあると思います。

古川 受け皿をしっかり作るということが重要ですね。製薬企業が支援していく部分でもあると思いますね。

加藤  MRを活用して、支援する必要はあると思います。


10年後のDTCの姿
患者さん一人一人に寄り添い、どうケアするかという方向に情報がシフトへ

古川 それからまだ実現してないものに、 DTCマーケティングで用いる情報やデータの客観性を審査して保証する第三者機関の設置があります。これは DTCに知見をお持ちの方々が NPOのような組織を作って、そこで審査していくべきだといったような先進的なことを議論されています。これから実現していくのではないかと思います。
加藤さんはこれから10年後どのようになっていると予想されますか?

加藤 いわゆる患者インサイトで、患者さんそれぞれの悩みに対し、同じ情報ではなく、一人一人に寄り添い、どうケアしていくかという方向に情報提供のあり方がシフトしていくと思います。

古川 ソリューションとしてはそういうこともできるところに来ていて、製薬企業として DTCを活用して実現したいと考えている企業は多いと思います。

加藤  ITの技術的な進歩と、患者さんに関するマーケットリサーチ手法の多様化があると思います。これらのクオリティが上がっていかないと、やりたいこともできないでしょうし、 DTCの担当者は常に新しい情報をウォッチしながら何ができるようになっているのかを把握して、本当に理想とすることが実現できるかを判断して、選んでいくというイメージでしょうか。

古川 私も常に情報をキャッチしていますし、リサーチしています。結構面白いソリューションが次々と出てきています。

加藤 インターネットがもしこれほど普及しなかったら、 DTCの普及するスピードはこれほど速くなかったと思います。インターネットの普及で、様々な情報が患者さんに届けられるようになりました。 ITの進化は大きなインパクトがありますよね。それが次に one to oneになったら、それこそ画面に触れるだけで、「この人の知りたい情報はこうだ」とか「こういうことで悩んでいるからこういうケアをしてあげよう」とか、何百通りもソリューションが出てきて、最適なものを引き出しから出していく、そういうイメージですね。

古川 加藤さんがいま注目している技術などありますか? 例えば AI(人工知能)などは?

加藤  AIには可能性を感じますね。医師によっては AIに頼るのはおかしいと考える方もいますが、私としては AIなど進化していく技術を、どのように医療に活用していけるのかが重要だと思います。産、官、学、そして医療側と製薬企業、患者さんが一体になって、医師の診断や治療をサポートする、セカンドオピニオンのような AIができるのが理想的かもしれません。製薬企業もきちんとエビデンスを提供して、それに患者さん側のデータに重ねていけば、 Aさんには Aという薬だけど、 Bさんには Bという薬のほうがよいなど、より個別化した治療を行うための判断をサポートできるようになるのではないでしょうか。
それに自分でバイタルデータを取れる時代ですから、患者さんが感覚的に判断するのではなく、第三者的に血圧や血糖値の値を見たうえで治療の必要性の有無を判断したり、最初の段階から適切な医師のところに行けるようになると思います。

古川 特に画像などはデータが蓄積されてきて、がんや皮膚の病気の画像は AIで診断できる時代になってきていますね。

加藤 そうです。最初は反対していた医師でも、決して AIが医師に取って代わるものではないということさえ理解してくれれば、むしろ利用価値は高いと感じるのではないでしょうか。医師の立場を覆すものではなく、より適切な診断と適切な治療をサポートするひとつの技術だと思っています。


 
■ここでご紹介した対談内容は、全体からの抜粋版になります。対談の完全版は2018年1月31日に文眞堂から発行された書籍『日本におけるDTCマーケティングの歩みと未来』(著者:古川隆)に全編収載されるています。書籍の方もぜひご覧頂けると幸いです■

【略歴】
加藤和彦(かとう かずひこ)
あすか製薬株式会社 取締役常務執行役員(開発本部長、創薬研究担当)
1985年4月、エスエス製薬株式会社入社。アベンティス ファーマ株式会社(現サノフィ株式会社)、マースジャパンリミテッド、アムジェン株式会社などを経て、20072月から株式会社イービーエムズ代表取締役社長。20147月にあすか製薬株式会社常務執行役員、20156月に同社取締役常務執行役員(マーケティング本部長、研究開発担当、信頼性保証担当)、20166月から現職。