DTCマーケティング/医薬品マーケティング

第10回
これからのDTCマーケティング

このコラムもあっという間に10回目で最終回を迎えることになった。最終回ではこれからのDTCマーケティングについて著者が今感じていることを紹介していこう。

株式会社アサツー ディ・ケイより提供された同社の社内資料によると昨年日本で投下されたDTC広告費は100億円を超えた模様である。同社資料によると昨年の日本のDTC広告費は、115億5029万円余りであった。同じく同社の集計による2007年のDTC広告費は69億3151万円余りであったので60%以上も伸びたことになる。長らく日本のDTC広告費は100億円を超えなかったので、昨年がブレークポイントになったと言えよう。日本のDTCマーケティングは確実に成長していると言ってよい。


 

 
今後日本のDTCはどう変わっていくだろうか。著者はDTCマーケティングの目的として大きく3つ、すなわち「疾患の認知」、「処方の獲得」、「コンプライアンスの維持」を拙著『DTCマーケティング』で挙げたが、今までの日本のDTCマーケティングでは「疾患の認知」にフォーカスがあたっていたと言って良い。どのプログラムもDTC広告を主体とした疾患認知向上型の手法が広く用いられていた。その結果、疾患の認知は上がったが受診にはあまり結びついていないことが課題として浮かび上がって来た。最近の目的の大きな変化は「処方の獲得」のための「患者の受診促進」や「医療機関における医師への相談促進」にフォーカスがあたりつつあることだ。消費財のマーケティングでは、広告を用いて商品ブランドの認知向上を図るとともに販売促進(セールス・プロモーション)によって消費者を実際の購買行動へと働きかけていくのが一般的である。DTCマーケティングでもこのセールス・プロモーション的な手法が模索されてきてDTCプロモーションが増えてくるだろう。
では、今後どのようなDTCマーケティングの手法が導入されてくるだろうか。まず、メディカル・コールセンターの活用であろう。現状のDTCでコールセンターは、新聞広告などを見て小冊子プレゼントに応募してきた人への事務的な対応が中心である。一般消費材マーケティングでのキャンペーン連動型と同様である。DTCマーケティングでは、コールセンターにもう一歩進んだ取り組みが欲しいところだ。電話をかけてくる人は少なからず疾患に関心や不安があるのだから、入電者に対して医療従事者が電話で相談するサービスを提供すれば患者に対して疾患の理解を深めるだけでなく、受診行動へのきっかけとなることが期待できる。( 図表10参照)日本ではメディカル・コールセンターと呼べる会社がほとんどないのが実情だが、ティーペック株式会社だけは例外で医師を含む多くの医療専門スタッフを社内にかかえており、質の高い医療情報を提供できる体制を整えている。同社はもともとはDTCマーケティング関連業務を扱っていなかったのだが、近年かなりのDTC関連プロジェクトを推進しているようである。キャンペーン連動型と違いリードタイムが十分にないとサービスの品質が保てないということだが、扱う内容が疾患であるのだから当然のことではある。
次に注目しているのは病医院内のテレビによる疾患啓発・受診促進活動である。一般消費財ではセールス・プロモーションとしての「デジタルサイネージ(電子看板)」が現在注目されている。デジタルサイネージとはいろいろな場所に設置されたディスプレイに映像や情報を配信し、表示する仕組みを言い、これからの新しいコミュニケーション方法として注目されつつある。代表的なものとして電車車内のドア上の液晶ディスプレイやスーパーマーケットなどに設置された大型ディスプレイに流れる広告映像などが挙げられる。その病院版と言って良いメディアが株式会社メディアコンテンツファクトリーの提供する「疾患啓発テレビ」である。( 図表11参照)医療機関を他の疾患で訪れている患者さんに対して院内で啓発をしていけば、医師はすぐそこにいる訳だからこれほど効率的なことはないといえる。しかし、残念ながら今までこの手法を取ろうとすると使えるメディアは、待合室に置かれた患者さん向雑誌くらいであった。「疾患啓発テレビ」では病医院での患者さんの待ち時間に効率的に疾患啓発と受診促進を働きかけるメディアとして先進的な製薬企業が利用を始めている。
最後に「コンプライアンスの維持」を目的としたDTCもスタートしたことをお知らせしておこう。アストラゼネカ株式会社は、乳がんの手術後にホルモン剤療法を始める乳がんの患者をサポートする会員制クラブ「Free Style Club(フリースタイルクラブ)」の新規会員募集を4月からはじめた。このクラブは、患者からの申し込みで入会でき、アストラゼネカ株式会社が運営をし、患者が女性らしく「あたりまえの生活」が送れるように応援するものだ。DTCの目的としての「コンプライアンスの維持」は日本では今までほとんど注目されず、治療を受ける患者を支援していくこのような仕組みはなかなかスタートしなかった。ここに来てこのような取り組みが出てきたことは大変喜ばしいことといえる。欧米では以前より製薬企業が提供する患者支援のための会員制組織がDTCの一環として実施されてきており、その疾患は今回のアストラゼネカ社ような重度な疾患にまで及ぶ。
あくまでも数例を挙げたのみだが、今後の日本のDTCでは「処方の獲得」、「コンプライアンスの維持」にフォーカスをあてた活動が増えてくると考える。製薬企業を取り巻く協力企業には積極的に新しい手法を提案して欲しいし、製薬企業もどんどんそれを取り入れて新しい形のDTCマーケティングを展開してもらいたい。今年DTCマーケティングが新たなフェーズ3に入ることを期待しながらこのコラム連載を終わりたいと思う。ずっとコラム連載を読んでいただいた読者諸氏に感謝申し上げる。(2009年6月)