DTCマーケティングとは
第9回:DTCマーケティングの効果測定
著者が製薬企業から依頼されることが多い業務の中に、このDTCマーケティングの効果測定方法の整備と確立がある。DTCマーケティングを実施している企業では何らかの効果測定基準をすでに持っている。
著者が製薬企業から依頼されることが多い業務の中に、このDTCマーケティングの効果測定方法の整備と確立がある。
図表9に一般的なDTCマーケティングを実施したときの受診者のフローを示す。フローに添って数字が①~⑭まで振ってあるが、厳密に効果検証をしていこうと思えば、このそれぞれについてデータを計測する必要がある。すべてのデータを正確に計測するのは不可能だが、⑨のWebサイトの閲覧者や⑩のコールセンターへの入電数などはかなり正確に実数を計測することが可能になっている。①~④のDTC広告の各メディアへの接触についてのデータ収集は調査会社である株式会社社会情報サービスがDTC専用の調査モデル「DTC-Roi(DTCロイ)」を用意している。この調査モデル「DTC-Roi(DTCロイ)」では、広告を見ての受診意向と実際の受診行動も調査できるようになっており使い勝手が良い。
DTCをプランニングする際によく利用されるいちばん基本的で分かりやすい効果検証の公式は投下したDTC関連総費用に対してのDTCによる売上高増加をみる方法である。分母にDTC総費用を分子にDTCによる売上をおいて、数値が1以上であれば“効果あり”という判定になる。拙著『DTCマーケティング』にも紹介しているが、この方法はプランニングに際してDTC実施を検討するために用いるのは有効だと思うが、DTC実施後の効果検証に用いようとすると少し問題がある。たいていDTCマーケティングの対象となる製品は、発売して間もないことが多く、売上の増加がDTCマーケティングによるものなのか通常のMR施策などによるものなのか厳密に分離して算定するのはなかなか難しいからだ。DTCの効果測定をしようとした場合、実施前に自社ではどのような効果検証モデルを用いるのかしっかりと検討し決定し、効果検証モデルに用いるそれぞれのデータはどのように測定するのかも決定しておく必要がある。DTCの先進企業では、DTCを実施するごとにこの効果検証モデルを精緻化することで、DTC実行プログラム自体の精度を上げることに成功している。DTCマーケティングを実施する際はついつい実行プログラムの予算ばかりに気を取られがちだが、効果検証を精密にしたいのであればそのための効果測定に用いる調査費用なども十分に用意しておかなければいけないことがわかると思う。
DTCの実行プラン立案までの段階では、現場での調査に協力してもらったり、情報を提供してもらうことによりDTCマーケティングの企画に少しでも参画してもらう。DTCマーケティングの実行プランが決定されてから実施に移されるまでの間には医療機関に対してDTCに関する情報提供を徹底的にしてもらう。この活動が非常に重要で、DTCマーケティングに製品名を使用することができない日本では、この事前のMR活動によってドクターにどこの企業が患者を医療機関に来院させているのかを認識してもらう必要がある。当然認識の後、自社製品の処方へと誘導するのはMRの本来の仕事である。
DTCマーケティングの実施中は、現場においてフォローにつとめてもらう。どんなに事前に情報提供をしておいても実施中に何らかのクレームが発生することがある。そういう場合は直ちに本社に連絡してもらい最善の対応をすることになる。特にクレームがなくても実施中は、患者の受診動向をヒアリングするという名目で訪問することが可能なので、積極的に訪問してもらいその情報を逐一本社に報告してもらうのも手である。DTCマーケティングの終了後も来院患者数のヒアリングや何か問題点がなかったかなどの確認にも動いてもらうことができる。
DTCマーケティングとMR活動との統合を解説してきたが、DTCマーケティングはMRにとっても格好の活動チャンスとなるので、どれだけ効果的に活動してもらうかで成果も大きく違ってくる。本社の製品チームはDTCマーケティング実施に当たってMRのモチベーションアップを図ることも忘れてはならない。
解説:古川隆
実業家、広告学者、広報学者。1958年5月20日生まれで、株式会社アーベーツェー(ABC)の代表取締役を務める。また、東洋大学理工学部都市環境デザイン学科講師や、埼玉医科大学の臨床研究審査委員会委員なども兼任している。
医療用医薬品のマーケティングに30年以上関わり、特に「DTCマーケティング(Direct to Consumer)」の分野で多くの研究発表を行っている。また、DTCマーケティングに関する専門書も執筆しており、日本におけるこの分野の第一人者。
文芸活動ではクラリネットの演奏者でクラシック音楽全般への造詣は深い。
ダンスの分野では2019年は1869年(明治2年)に日本とオーストリア・ハンガリー二重君主国の間で結ばれた日墺修好通商航海条約からちょうど150周年を迎える年、それを記念し祝賀するために11月に開催された「日墺友好150周年記念舞踏会」の開催に参画し、実行委員を務め舞踏会を成功に導いた。
2023年11月にウィーンで開催されている舞踏会を日本にも普及させることを目的に「Wiener Blut Ball (ウィーン気質舞踏会)運営機構」を有志とともに設立、代表理事に就任した。2024年7月21日にワルツ王、ヨハン・シュトラウス二世の生誕200周年のプレ行事であるWiener Blut Ball (ウィーン気質舞踏会)2024を開催した。